不知火文庫

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補完

 数学と自然言語は、その目的は同じだが、生み出す行間が一致することはない。仮に数学と自然言語の意味関係が一対一で対応したとしても、数学と自然言語が真に等価になることはない。

 

 数学と自然言語性質が大きく異なる。光と影、あるいはAと¬Aのように、同じ根から生じてはいるが、その性質が一致することはない。その性質で同じものを対の極から目指している。 

 数学はそれ自体で意味を生み出すことができないが、公理を基盤にして堅牢な論理を生み出す。自然言語は公理も、それを基盤にした形式にも欠陥があるが、その欠陥によって意味を生み出す。

 数学は形式を生み出し、自然言語は意味を生み出す。数学に意味はなく、自然言語に形式はない。数学は自然言語によってその意味が補完され、自然言語は数学によってその形式が補完される。数学と自然言語、あるいは形式と意味が合わさったとき、その系は安定した環状になる。 

 

 おそらく、世界は数学の体や環などの集合から一部を削り落としたものに意味を付与したものに近い。特異点の存在を認めた不完全な完全さが安定した世界を構築する。

行間

 行と行の間には何かが宿る。意図していても、そうでなくても、望み通りであろうとなかろうと。

 数学の記号で表されることと我々の用いる言語で表されることの内容が、数学の同型のように一対一で対応したとしても、同じなのは明示的な意味だけ。行間に宿るものは異なる。

 行内で語られる言葉は、行間で語られるものによってはかられる。

 刃を抜くな。ただで刃は収まらない。気安く失う覚悟をするな。

 抜くな。そして、抜かせるな。抜くは不肖の道。抜かない道を善と知れ。

 抜けば起きる「そのこと」。それに対する想像力が、竦みを生み、その均衡が互いを守る。

 力は極力鞘に納めて使うものだ。

分別と謙虚さ

 知性と強さは、それらをもたない場合とは異なる困難を呼び寄せる。知性と強さは苦難を生み出し、他者と我が身を焼いていく。

 

 知性は安楽を約束しない。強さは安楽を約束しない。

 

 あなたを……

 知性と強さの呪いから守るのは、あなた自身の分別だ。知性と強さに惑されないよう導くのは、あなた自身の謙虚さだ。

主役

 たとえあなたが脇役でも、あなたはあなたの主役です。あなたの人生を引き受けられるのはあなただけ。いいことも悪いことも、結果は全てあなたのもの。

 あなたには引き受ける権利と義務がある。