不知火文庫

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掃除と誰の義務でもない仕事

職場の公共スペースを掃除することが僕の日課だ。

最初に始めたのはある日の昼休憩。僕は休憩時間にはたいてい本を読んだり同じ課の人たちと談笑したりするのだが、その日はなんとなくみんな静かだった。かといって本を読む気にもなれない。

時間を持て余したので、いつもは休憩時間が終わる間際に淹れにいく紅茶を早めに淹れにいくことにした。給湯室に入る。フレンチプレスに溜まった使用済みの茶葉をビニール袋に入れてゴミ箱に放り、流し台から水を出し、フレンチプレスを軽くすすごうとした。流し台に目がいく。大部分が赤茶けている上に、食べかすが排水溝に溜まっている。そういえばこの流し台はいつもものすごく汚れている。なんとなく気分がもやもやした。見た目がきれいではないし、衛生面からいっても決してよいとはいえない。自分が使う場所はきれいな方が気分よく使えるのに。

だったら今きれいにするか。どうせ休憩時間はまだ残っている。僕は休憩時間を目いっぱい使って流し台をきれいにしてから紅茶を淹れた。掃除した後の紅茶はいつもよりうまいような気がした。

その日以来、休憩時間の最後の5分で気になったところを手早く掃除するようになった。長引きそうなときは無理に時間を引き延ばして頑張るのではなく次回に持ち越す。そうすることで制限時間内に効率よく掃除をするための工夫をする意識が芽生えやすくなる。短い時間で区切って手を付けられそうなところから重点的にきれいにしていくこの作業は、スターフォックス64のスコアアタックのようなもので、効率よく成果を出すことを目指すゲームだ。また、あるステージをクリアすると、次のより難しいステージを選択できるようになる。そのエリアの征服には1回の掃除時間だけでは足りず、数回かかることもある。また、そうしている間に以前綺麗にしたところがまた汚れてくるので、そちらの方も鎮圧しながらクリアしていかなくてはならない。なかなか厳しい縛りだが、できなくはない難易度を選択すれば楽しむことができる。紅茶を気分よく淹れておいしく飲むための楽しいゲーム、といったところだろうか。

「みんなのためになるので誰かがした方がいい。しかし、誰もする義務がないこと」はこういう動機がある場合にうまく、そして楽しく遂行されるのかもしれない。