不知火文庫

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万年筆

 私は万年筆が大好きだ。使うようになったきっかけは字を書く際の腕の疲労を軽減するためだ。万年筆はファッション性の強い文房具だといわれることが多いようだが、私はほぼ実用性を目当てに万年筆を使い始めた。最初に購入した万年筆はプラチナ万年筆のセンチュリー3776超極細字シャルトルブルー。軸は鮮やかな青色、ペン先は14Kの金色で中央に小さなハート模様がある。購入当時の僕は細かい字でノートを書くことが好きだったので、ペン先を超極細にした。字の幅は0.3mmのボールペンと同程度で、細かい字も難なく書ける。軸もペン先も細めで、いかにもな万年筆という雰囲気はないが、今でもとても気に入っている。

 最もよく使うのはパイロット743の中細字ブラックと、プラチナ万年筆センチュリー3776中字シャルトルブルーだ。この二本はペン先が程よく太いので、大きめの字を書いても字のバランスが崩れにくい。また、力を抜いて書いても筆跡がふにゃふにゃにならず、筆圧の強弱によって字の太さを調節しやすいので、細いペン先の万年筆に比べて字を書く楽しみが二割増しになる。

 プラチナ万年筆センチュリー3776シャルトルブルーは超極細字と中字の二種類を持っているが、私はこれらを同じペンケースに入れて一緒に持ち歩く。当初は見分けるにはキャップを外して確認しなくてはならなかった。面倒だから目印になるものをつけようと考えたこともあるが、結局何もつけないままでいた。

 ある日、不注意で中字の方を地面に落とした。キャップの一部が欠けてしまい、目立つ傷が残った。修繕することはできそうにない。最初のうちは少し落ち込んだが、しばらくすると、この傷を超極細字と中字を見分ける際の目印にできると気づいた。中字のキャップについた傷は、今では二つの万年筆を見分けるための目印が板についてきている。偶然の、それも少々不幸な目印ではあるが、実用的かつ思い出深い傷で、今は結構気に入っている。

 私は他にもいくつかの万年筆を持っているが、その中でも特に目立ち、また使い方や使いどころをあれこれ思案してしまうのがモンブランのマイスターシュテュック149極細だ。丸みを帯びたつるんとした軸に、金色と白色が入り混じる細工が施された大ぶりのペン先を持つ大型の万年筆だ。この万年筆、とにかく軸が太い。ペン先も極細とはいえかなり太く、大きな字を書くとき以外はあまり使う場面がない。こういうモンスターのような万年筆は普段使いにはあまり適していないのかもしれない。私が書きたい大きさの字に比して、軸もペン先も少々太すぎるのだ。

 この万年筆だけは私が持っている万年筆の中でも飛び抜けてファッション性と趣味性が強い。よくいえば個性的、悪くいえば大きな欠点を持つマイスターシュテュック149極細だが、高級かつ高品質なものを所有し、使用するという充実感は間違いなくもたらしてくれる。そういう万年筆の楽しみ方があってもいいのではないかと思う。

 万年筆は書くための道具だ。だが、書くためだけの道具ではない。長く使い続けることを前提にしているのでメンテナンスは必須である。使い続ける間に傷がつくこともある。アクセサリーとしての機能もある。そういう機能や思い出を長く所有し続けられるところに万年筆の面白さがあるのではないかと思う。