不知火文庫

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π

 次に何がやってくるかは誰にもわからない。1だろうか。2だろうか。3?4?それとも……。次に何がやってくるかわからない。永遠の謎だ。

 πはどこまで行っても解けることのない謎を持っている。現実的な観点からいえば、少なくとも日常生活や科学の世界において小数点以下10桁を超えるような精度はほとんど不要だ。小数点以下10桁まで明らかになった時点で研究することをやめてしまっても大した不都合は生じなかったかもしれない。数学的手法の発見がされなかったり、遅れたりすることになったかもしれないが、別の経路を経由して似たような知見は得られていただろう。

 何ならば今すぐやめてしまってもいいのだ。しかし、きっと人類はそうしない。これからもやめることはないだろう。研究が衰退することはあるかもしれないが、知見が退化することはない。前に進むことはあっても後ろに戻ることはない。

 解けることのない謎が含まれるのはπだけではない。人生も世界も、そしておそらく何もかもが永遠に解けない謎を抱えている。それらに対しても、人類は貪欲に理解しようとする。

 しかし。理解したからといって謎は解けない。理解することで解き明かされる謎は一部分だけで、解けた謎の一部分が我々に教えてくれるものは答えではない。傾向だ。謎はいつまでも残る。

 それでも人類は先へ進もうとする。解けないと半ば理解していても必要な分以上に突き詰めようとする。何故人類は先に進むことを選ぶのだろう。先に進まずにいた方が幸せになれる可能性を考慮してもなお進もうとしているのだろうか。単純な好奇心、あるいは「わからない」という状態を忌避したいという願望がそうさせるのだろうか。それとも、何か他の理由があるのだろうか。人類が先へ進もうとする理由もまた、解けることのない謎なのかもしれない。