不知火文庫

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不文律

 理由はいつまでたってもどこまでいってもわからない。数学の公理によく似ている。

 理由と実在の両方を明確に定めて保てる世界は存在しない。理由の存在を保証すれば実在の存在は保証できず、実在の存在を保証すれば理由の存在は保証できない。この世界はそこまでうまくできていないのかもしれない。少なくとも、私が観察できる限りの範囲では。

 理由と実在を論理と公理に変えれば、そのまま数学に関する事実の記述になる。世界が成り立つには、理由と実在のどちらかまたは両方が不完全であることを認められなくてはならない。世界は不明瞭かつ面倒な仕組みのもとで動いている。

 

 

 

 愛も同じこと。愛する理由が明らかになると、その実在が危うくなる。

 愛する理由が一つわかったとする。その部分がなくなれば愛は消えるのだろうか。イエスならば愛は終わりだ。ノーならば次の理由で同じことを試す。切り取り続ければ、やがて愛は底をつく。理由が無限にあればそうはならないかもしれないが、それでも危ういことに変わりはない。

 愛する理由を理解しても、それは愛を守る力になってはくれない。愛を守るには、理解を重ねながらも理解できない領域を守り続けること。あるいは理解できない領域の存在を信じること。それは信じられるならば虚構であっても構わないし、突き詰めれば虚構にしかならないだろう。

 それをうまく信じて自らうまく騙されることによって愛は守られる。愛の理由を不文律化することで、愛は綻びのない環になる。

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