不知火文庫

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解放

 夢に対する叶わない願いは私の心を歪めた。私は夢の中に悪いところや欠点、限界、嫌いなところを探しては願望を枯らそうとした。そこまではいかなくても、せめて情熱を冷ましたかった。冷めた心で世界に向き合いたかった。そうすれば、手が届かない苦しみから逃れられるような気がした。そこには負け惜しみのような感情が多分にあった。そのことに気づいていた。それでも構わないと思った。私はどうすることもできない苦しみを消して、穏やかに生きていきたかった。

 きっと、もっといい方法があったはずだ。しかし、当時の私にはそうすることしかできなかった。そして、願望は中途半端に枯れ、情熱は燻ったまま今ここにいる。夢は今でもまだ私の中でもがき続けている。

 

 私の人生において、夢は大きな存在だった。最後まで手を伸ばしきれず、伸ばし続けることもできなかった。それでも大切だった。愛していた。畏れていた。そして、恨んでもいた。もうそろそろそのような生き方から解放されてもいいときだろう。

 夢に対する想いは今でも持っている。しかし、もう形が変わっている。もう夢から遠ざかるときだ。手を放し、別れの挨拶をするときだ。

 

 さようなら、と別れを告げる。晴れ晴れとした気分だ。夢から解放されて、私は大きな自由と孤独を取り戻した。ちくりと胸が痛む。孤独とともに私はどのように生き、どこまで行けるのかと思うと、一抹の不安を抱えながらも心は踊る。その大きな孤独は私をどこへ導くのだろうか。

 心の中で過去の夢が微笑んだような気がした。扉が半分開いている。こことは違うところへ帰るため、私は扉の向こうへ歩き出す。

 

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