不知火文庫

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語りたいこと

「最近話したいことがどんどんなくなっていっているような気がするんだ」

「ほう」

「話すだけならできるし、意見を求められたら言うこともできるよ。でも、どうしても語りたいというものがないんだ。思い出せないのか、わからないのか、失われたのか、そもそもないのかどうかはわからないけど」

「ふむ。それは伝えるべきことがあると感じる相手がいない、ということなんじゃないの」

「そうかもしれない。なんか寂しくなるな」

 わからないといったが、少しはわかっていた。語りたいことはあった。それがいつの間にかどこかへ消えてしまっていた。最初は思い出せないだけだった。しかし、少しずつ失われていった。今も失われ続けている。

 それと並行して、わからないものが得られた。わからないが、心の中で叫んでいるものがある。しかし、それを語る術はない。今の私にはわからない。そしてきっと、わかる頃にはもう私の心は今の叫びを喪っている。

 語るものはやがて全て失われるのだろうか。それとも……

 

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