不知火文庫

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才能

「私、あの人が嫌いなの。だってあの人は……」

「そうなんですか」

 また批評が始まった。私は適当に聞きながす。

「ちょっと自分に才能があるからっていい気になって。あんな人、絶対にうまくいかないわ」

「そうですか」

 彼女は片方の口角を釣り上げて、嬉しそうに他の人を批評している。

 批評する側に回れば、簡単に批評される側よりも立派になった気分になれるからだろうか。

「あなたには何の才能もないけど私にはある、とでも言いたそうな態度、感じが悪いったらありゃしない」

「そんなことないと思いますよ」

 そんなに長い時間、周囲の空気を気にすることもなく、ろくに言葉を選ぶこともなく、怒り続けたり愚痴を言い続けたりすることができる。立派な才能だ。

 

 転職してピエロにでもなればいいんじゃあないか、と私は心の中で彼女に忠告した。