不知火文庫

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断片

聖域

聖域とは何だろうか。ある辞書曰く、侵してはならない神聖な場所・区域、という意味らしい。侵せない、ではなく侵してはならない、というところに聖域の性質が垣間見えるように思える。 侵すことは簡単で、侵されないように保護しなくては存在することが困難…

不文律

理由はいつまでたってもどこまでいってもわからない。数学の公理によく似ている。 理由と実在の両方を明確に定めて保てる世界は存在しない。理由の存在を保証すれば実在の存在は保証できず、実在の存在を保証すれば理由の存在は保証できない。この世界はそこ…

衝動、あるいは扉

直感は当たったその場で掴み取れ。血潮が褪せて、脈が消えるその前に。 生命の躍動、意識の核、水面下の閃光、取り出すためには正確さよりも勢いだ。全ては勢いから誕生する。今を切り拓くのは、調和した美しさではない。歪に尖った衝動だ。調和に惑わされず…

ブルーブラックと相棒

線がかすれはじめる。ああ、もうそんな時期か。せっかく今いい気分で字を書いていたのに。ため息を一つついて、私はペリカン4001ブルーブラックを取り出した。ガラス製のボトルのキャップをひねって外す。ボトルの入口付近にインクの薄い膜が張っている。そ…

ブルーな紅茶

砂は完全に落ちきっていた。時間は枠を超過し、測定不能な領域へ突入していた。容器には赤褐色の液体が入っている。明らかにいつもより暗い色だ。急がなければ。慌てて容器から赤褐色の液体を別の容器に注ぐ。思わずため息が漏れる。赤褐色の液体を一口すす…

赤い万年筆

胴体を右手の親指、人差し指、中指でつまみ、キャップを左手の親指、人差し指、中指でつまむ。そのまま左右の手でひねるとキャップが外れる。隼の嘴のような形をした、銀色のつややかなペン先が顔をのぞかせる。 ペン先を紙の上に乗せ、力を抜いてペンを走ら…

万年筆

私は万年筆が大好きだ。使うようになったきっかけは字を書く際の腕の疲労を軽減するためだ。万年筆はファッション性の強い文房具だといわれることが多いようだが、私はほぼ実用性を目当てに万年筆を使い始めた。最初に購入した万年筆はプラチナ万年筆のセン…

楽しい紅茶

フレンチプレスにティースプーン1杯分の紅茶の葉を入れた。そして、軽く左右に振る。そうするとフレンチプレスの底面に葉が均等に並ぶ。プレスに鼻を近づけて香りをかいでみる。抽出した紅茶の香りとは違ってグリニッシュだが、いい香りだ。フレンチプレスに…