不知火文庫

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補完

 数学と自然言語は、その目的は同じだが、生み出す行間が一致することはない。仮に数学と自然言語の意味関係が一対一で対応したとしても、数学と自然言語が真に等価になることはない。

 

 数学と自然言語性質が大きく異なる。光と影、あるいはAと¬Aのように、同じ根から生じてはいるが、その性質が一致することはない。その性質で同じものを対の極から目指している。 

 数学はそれ自体で意味を生み出すことができないが、公理を基盤にして堅牢な論理を生み出す。自然言語は公理も、それを基盤にした形式にも欠陥があるが、その欠陥によって意味を生み出す。

 数学は形式を生み出し、自然言語は意味を生み出す。数学に意味はなく、自然言語に形式はない。数学は自然言語によってその意味が補完され、自然言語は数学によってその形式が補完される。数学と自然言語、あるいは形式と意味が合わさったとき、その系は安定した環状になる。 

 

 おそらく、世界は数学の体や環などの集合から一部を削り落としたものに意味を付与したものに近い。特異点の存在を認めた不完全な完全さが安定した世界を構築する。