断片
「原理主義のもとになった原典に人格があったり、原典を作成したものたちが生きていたりしたら、彼らは原理主義になって原理を遵守するのかな」 「どうだろうね。でも僕ならしないな。たぶん、原理というのはベストとまではいかなくても、周囲の環境や条件を…
彼が死んだ。仮想の中で死に続けるうちに疲れてしまったのだろうか。 美しく死ぬにはまだ早い。まだ無粋なくらい必死で生きられるはずだ。私は彼にそう伝えたかった。しかし、彼にとってはそうではなかったのかもしれない。彼は、いつか来る生きられなくなる…
会いたい人がいる。私はずっと待ち続けている。あの人は気づいているのだろうか。私が嘆いていることに。私が迷っていることに。想いは日々揺らぐ。挫けそうになる決心、いつまで守り切れるののだろう。私は自分に自信を持てなくなる。 報われない想いになる…
「私だけなぜこんな罰をうけなくてはならないんだ。理不尽じゃないか」 「ああ、そうだ。お前はたまたま捕まった。そして、たまたま運悪く厳罰に処されることになった」 「不公平だ」 彼は大声で叫ぶ。 「何を勘違いしてる。世の中が公平で慈悲に満ちた裁き…
ifは甘く優しい時間をくれる。ifのおかげで私は自分の世界の中では強くなった。しかし、その甘い時間はすぐ終わる。。世界にひびが入る。視界に黒い線が広がる。 急に自分が吹けば消えそうなほど弱い人間であるかのような気になる。 ifは望みを叶える力を与…
大切だという意思は行動で示すもの。勝つことや得することよりも大切なものも、心から大切に思っているものも。 大切なものは、大切な理由を口にした瞬間、負け惜しみや嘘になり下がる。他人にとっても、そして何より自分自身にとっても。 もし誇りがあるな…
「大切に守られないと壊れてしまうようなものは、淘汰されていくべき存在だから助けなくていいんじゃないの」 「かもしれない」 「じゃあなんであなたはそうしないの」 「なんとなくだよ。そうしたいからそうするんだ」 「それじゃ理由にならないよ」 「理由…
認識できる枠組みの外にはもっと大きな流れがある。そしてたいていの場合、それが認識できるようになる頃にはもう変えることができない。運命は変えられなくなってから我々のもとにやってくる。または変えられなくなったものを運命という。 運命がやってきた…
今でも扉を開けたときのことを思い出す。私にとって夢は大切なものだった。別れを告げるとき、私は誰に対してでもなく強がってみせた。悲しくない、つらくない、と自分自身に言い聞かせた。本当はそうではなかった。悲しかった。つらかった。たとえ苦しみか…
夢に対する叶わない願いは私の心を歪めた。私は夢の中に悪いところや欠点、限界、嫌いなところを探しては願望を枯らそうとした。そこまではいかなくても、せめて情熱を冷ましたかった。冷めた心で世界に向き合いたかった。そうすれば、手が届かない苦しみか…
「使うならまだしも、使わない切り札を準備なんてしておいてどうするのさ」 「たとえ使わないとわかっていても、最善策でなかったとしても、刀は使えるようにしておくものだよ。斬ること以上に斬れること、さらに言えば、斬れることより斬れると思われること…
私が他のものと一緒に居られるのは邪魔にならないときだけのように思えて悲しくなった。邪魔だと感じたら、私は他人をいとも簡単に突き放せてしまえるかもしれない。そんな自分に疲れていた。一緒にいてくれる人に申し訳なく思った。 邪魔になっても共存して…
「あの人の笑顔を思い出せないんだ」 「ふうん」 「なんでなんだろう」 「その人の本当の笑顔を見たことがないからじゃないの。それか、あなた自身が笑えていないからとか」
父が私の家にやってきた。スピーカーの調子が悪いので、修理しに来てくれたのだ。父は私の家に上がり、図書室に入る。 「おお、相変わらずいい部屋だな」と父が言う。 「そうでしょ」 思わず誇らしい気持ちになる。 「秘密基地みたいで面白いよなあ」 父が楽…
「最高の芸術は記録の中にはないんじゃないかしら」 「どういうことですか」 「知りたい」 水瀬は私に尋ねた。私は静かに頷いた。 「そう」 彼女はそう呟くと私の方を向いて、すらりとした指を私の首にかけた。そして、私の背中へ回り込んだ。自分の首回りに…
「神がいるとして、何のために自らの創造物に様々な不幸を与えているかは誰にも分からない。創造された者達が不幸だと感じたり苦しんだりしていることに気づいていないのかもしれないし、何か大きな理由があるのかもしれないし、何の理由もないのかもしれな…
「私は間違っていることが許せないんだ」 「間違っていることが許せないことに対して、そもそも間違いとは何か、なんて質問をするつもりはないよ。ただ、間違いを許せないこと、許さないことが間違っている可能性がないとは思わないのか」
電子、陽子、重力子、その他大半の粒子は、実在することにした都合がよいから実在するということにしている、と認識する方が粒子という概念を理解しやすい。 実在しているかどうかを示すことはできないが、実在していると仮定しても大した矛盾がなく、計算や…
中学高校時代に考えていた設定や登場人物、使い物にならないと思っていたけど、改訂すれば普通に使える。 ○沖田秀一 ○沖田いろは ○近衛宗一郎 ○神真太郎 ○水瀬優 ○志水美冴 ○伊崎杏 という名の人物たちは、特によく動いてくれそうだ。 並行世界、局所循環世…
愛を目的とみる人はたいてい悲観的である。 愛を手段とみる人はたいてい楽観的である。
私は極力断言することを避けるようにしている。会話をしているとき、考えごとをしているとき、文章を書いているとき、その他ほとんどの場面において。 自分の知性が完全ではないこと、自分が間違っている可能性があることを考慮しているうちにそうなった。断…
「ところで、どうして君は私を誘ったんだ」 「何だ、理由がないと誘っちゃいけないのか」 「いや。ただ気になっただけだ」 「何となくそうしたかっただけだよ」 ―理由はない時がある。理由は要らない時がある。
自分の行動を評価するのは自分ではなく自分以外の者たちだ。この事実が人を幾分倫理的にしたり粋にしたりするのではないか。
「希望って何なんだろう」 「絶望と仲良くできている状態か、その状態のときにみえる錯覚のことだよ」
「私は悲しい」 「そうか。それでも、生きていかなくてはならない。君も私も。」 諦めることが悪いとは思わない。救いはまだある。楽しみを追い求めるだけではなく、悲しみと仲良くすることを学んだ方がいいのだろう。 「うん。今は悲しみをうまく味わう訓練…
時刻は18時前。日が沈むまで、あと一刻程度だ。空の青が暗くなり始め、西の水平線付近は赤みを帯び始めている。実家に帰ると父がガレージでジャズを聴いていた。 「ただいま」と父に言った。 「おう、おかえり」 「これ、かっこいいね」 「そうだろう。あま…
少数派は平均からのズレを自身で折衝して生きていかなくてはならないという宿命を持っている。 一般的には少数派の意見や存在も、多数派のそれと同じように尊重されることが好ましいとされている。しかし、その尊重が多数派から少数派への働きかけによって生…
決断なき良心は身を焼く。逡巡なき良心もまた身を焼く。
神(あるいは神と比喩できるような文明)のそばに居続けながら、神を畏れずにいることは難しい。しかし、それと同じくらい神を畏れ続けることもまた難しい。神は適切に畏れるものだ。
面白い定義、面白い設定、面白い内容は大切だ。しかし、それだけでは作品が文章でなくてはいけない理由はない。 ある私は、「文章という媒体を選択することが必然となるような作品を作りたい。その上で面白い定義、面白い設定、面白い内容を盛り込めれば……」…