不知火文庫

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2017-09-01から1ヶ月間の記事一覧

哲学

「哲学って何のためにするものなんですか」 「やめるためにだよ」

奏(「解放」の続編)

今でも扉を開けたときのことを思い出す。私にとって夢は大切なものだった。別れを告げるとき、私は誰に対してでもなく強がってみせた。悲しくない、つらくない、と自分自身に言い聞かせた。本当はそうではなかった。悲しかった。つらかった。たとえ苦しみか…

解放

夢に対する叶わない願いは私の心を歪めた。私は夢の中に悪いところや欠点、限界、嫌いなところを探しては願望を枯らそうとした。そこまではいかなくても、せめて情熱を冷ましたかった。冷めた心で世界に向き合いたかった。そうすれば、手が届かない苦しみか…

当事者意識

当事者であるという認識がないものは策を講じることよりも誰かのせいにすることに労力をかける。自分が当事者だと認識していれば、そうはならないはずだ。自分を当事者だと認識している人の言葉は立て板に水というようにはならない。当事者であれば少なから…

ある喪失

午後10時。今日は作業がはかどらない。やる気も出ない。今日はそういう日だということをうすうす理解しながら粘り続けたが、どうやら本格的に調子が悪いようだ。 ベッドに寝転がる。伸びをすると腹筋が伸びて気持ちがいい。ベッド脇にある背の低いテーブルの…

必要十分

言葉は多すぎると威力が落ちる。きちんと引き締めなさい。

日記帳(※5000文字くらいあります)

本を探していると、本棚から見覚えのある、手のひらに収まるくらいのノートを見つけた。使用開始日は二〇〇八年五月十三日、使用終了日は二〇〇八年八月三十一日。私が大学二回生の頃の記録のようだ。ノートの中には、当時考えたことや感じたことがたくさん…

切り札

「使うならまだしも、使わない切り札を準備なんてしておいてどうするのさ」 「たとえ使わないとわかっていても、最善策でなかったとしても、刀は使えるようにしておくものだよ。斬ること以上に斬れること、さらに言えば、斬れることより斬れると思われること…

迷い

私が他のものと一緒に居られるのは邪魔にならないときだけのように思えて悲しくなった。邪魔だと感じたら、私は他人をいとも簡単に突き放せてしまえるかもしれない。そんな自分に疲れていた。一緒にいてくれる人に申し訳なく思った。 邪魔になっても共存して…

あるいは無

〔↓のBGMを聴きながら読むと雰囲気が出るかもしれません〕 恐怖で身体が一瞬こわばる。数瞬後、私ははじけ飛ぶように逃げた。全力で走る。絞り出せる限りの力を振り絞る。橋が見えてきた。橋はいけない。目立つ上に挟み込まれると逃げられないからだ。橋の下…

テーブル

私の家に新しいテーブルがやってきた。姉が自分は使わないから、使うならもらってほしい、といって私に譲ってくれたのだ。卓は畳一枚を一回り小さくしたくらいの大きさ、こげ茶色の脚がついていて、その脚からはうっすらと木目が見えている。 私は姉からもら…

笑顔

「あの人の笑顔を思い出せないんだ」 「ふうん」 「なんでなんだろう」 「その人の本当の笑顔を見たことがないからじゃないの。それか、あなた自身が笑えていないからとか」