不知火文庫

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衝動、あるいは扉

 直感は当たったその場で掴み取れ。血潮が褪せて、脈が消えるその前に。

 生命の躍動、意識の核、水面下の閃光、取り出すためには正確さよりも勢いだ。全ては勢いから誕生する。今を切り拓くのは、調和した美しさではない。歪に尖った衝動だ。調和に惑わされず、魂を解き放て。

 

 情熱が胎動する。迷わず食らいつく。放すな、逃すな、この感覚。

 

 この瞬間、逃せばもう後はない。始まりとはそういうものだ。逃したものに執着するな。執着は心を過去に縛り付け、「今」から力を吸い上げる。この瞬間は過去を想うな。今に全てを注ぎ込め。

 

 失う前に掬い取れ。忘れる前に刻み込め。

 

 過去から現在、現在から未来への一連の流れに思いを馳せる。悪いことではない。しかし、居着けば活は失せていく。思いを馳せても留まることにはこだわるな。

 調和を一時手放すことで、次の扉は開かれる。

 

 

 こんなことを熱心に文章化するのは、私がこの感覚を自分のものにし切れていないからだろう。自分にとって当たり前のことならば、文章にするまでもなく、そういう考え方のもとで考えたり感じたりすることを文章にするはずだ。

 文章を書くときは、既に完成した様式については明示的な表現をすることが難しくなる。様式が完成するとは、その様式が当人にとっては当たり前のものとして消化されてしまったということだ。 

 思考にせよ感覚にせよ人は当たり前のことを主張したがらない。承認欲求がむき出しになるのは完成していない様式を用いるときだ。そのとき、その様式は明示的な主張という形を伴って姿を現す。

 成長・完成までの間のもがきやあがき、地道な修練は、その最中になければ明示的な主張として表現することはできない。修得してしまった後では当たり前すぎて野暮だと感じてしまうからだ。そうなれば、その様式においては明示的で勢いと躍動感のある表現をすることは困難になる。