不知火文庫

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怪奇

 ある日の夜、眠りにつきかけたころ、突然どこかからキリキリという不気味な音がし始めた。何かにみられているような、何かが迫ってくるような感覚に襲われる。私は布団に包まり、その端を握りしめて怯えながら夜を明かした。

 気が付くと朝になっていた。私はいつの間にか眠ってしまっていたようだ。しかし、あまりよく眠れなかったせいか、頭がぼんやりする。昨晩にあったことを両親に話した。しかし、両親はそのような音は聞こえなかったという。

 私が何度説明しても、両親はまともに取り合うことも理解を示すこともなかった。両親は私をおかしいと断定して責め始めたので、私は口をつぐんだ。

 

 どこからともなく聞こえる不気味な音は毎晩のように鳴り続けた。聞こえるのは決まって私が眠ろうとするときだ。どこから聞こえてくるかわからない不気味さは私の恐怖を煽る。そして、神経をささくれ立たせる何かがあった。この音が聞こえてくるたび、私は恐ろしくなった。やがて、音が聞こえてくるかもしれないことに怯えるようになり、眠ることさえも恐れるようになった。

 私は堪えきれなくなって何度か両親に訴えかけた。実際に音が聞こえたときに両親を起こして聞かせようとしたこともあった。しかし、両親にはこの音が聞こえないようだった。毎回、私がおかしいのだと責められた。だが、私の耳には確かに聞こえているのだ。その後も音に怯える日々は続く。

 何度目かの後、私は両親に話すことをやめた。自分以外の人に理解されることを期待しなくなり始めたのはその頃だったような気がする。

 

 音はそれからも聞こえた。しかし、聞こえる頻度も音量も減少していき、やがて私にも聞こえないようになった。私の夜に平穏が戻った。結局、音の正体がわかることはなかったが、私はさほど気にせず、いつの間にか奇妙な音が聞こえていたことさえも忘れた。

 

 不気味な音は私や私の周囲に直接的な危害を生じさせることもなかった。しかし、この音によって失われたものが戻ってくることはない。

 そして今、またあの音が聞こえている。