不知火文庫

私設図書室「不知火文庫」の管理人が運営しています。

2017-08-01から1ヶ月間の記事一覧

退屈

退屈なものは案外飽きない。命令されてするものを除けば、退屈するまで続けるには飽きにくいものでなくてはならないからかもしれない。 退屈なものに浸り、繰り返す。その行為にはある種の陶酔感と安心感がある。意義や意味がなくても続けることができる行為…

そういう生き方

「なぜ目立とうとしないのですか」 「目立たなくても願いが叶うからです」 「なぜ議論しようとしないのですか」 「議論しなくても願いが叶うからです」 「なぜ勝とうとしないのですか」 「勝たなくても願いが叶うからです」 「なぜ戦おうとしないのですか」 …

断言

何かについて断言する人は、断言できる程度のことしか理解しようとしていないようにみえる。

ある夏の死(要修正)

自宅を出る。空は鈍い鉛色で、触れられそうなほど低い。前日から未明まで雨を降らせ続けた雲は、まだ低い空に居座り続けている。未明まで続いた雨と雲越しの日差しは空気を重く湿らせ、その空気が地表付近をすっぽりと覆っている。 私は三キロメートル強離れ…

良心

決断なき良心は身を焼く。逡巡なき良心もまた身を焼く。

祀り

神(あるいは神と比喩できるような文明)のそばに居続けながら、神を畏れずにいることは難しい。しかし、それと同じくらい神を畏れ続けることもまた難しい。神は適切に畏れるものだ。

洗練

洗練された行為はあまり意識されないときに表出する。 あることについて、洗練されているとはどういうことかを考えているときに、その洗練された行為を行うことはできない。 洗練はその過程で必ず意識を要する。しかし、意識は必ず「ずれ」を生む。行為を行…

Ring number

0は無、あるいは有の特異点、零写像。1は基本単位、基底、恒等写像。2は最小相関単位。3は最小循環単位・最小閉環単位。端をなくすには少なくとも3個以上の点が必要だ。

達人

静かに襲い掛かってくるものは劇的に襲いかかってくるものより恐ろしい。身構えたり策を講じたりすることが困難だからだ。静かに襲い掛かってくるものの存在を異常と認識することは劇的なそれよりも難しい。異常を認識することができなければ、達人でもない…

不知火

私は真剣だった。真剣だから息苦しくなり、ついに「扉」の先を知ることは叶わなかった。そして、今もここにいる。 私は見失いそうなほど夢中で探した。そうすると何かを掴めそうになる。そして、掴む。しかし、何かはいつもすり抜けた。あるとき、逃さず掴ん…

完全さとファインチューニング

完全なものは存在しない。抽象概念も具体物も何もかもが完全ではない。どこかに必ず綻びがある。それに気づかないか目を瞑るかしない限り完全さは存在することができず、そうして守られた完全さは不完全さの上にしか成り立たない。 「完全」の定義は変幻自在…

そうですか。大変ですね

「私、なんでも気にしすぎてしまうんです」 「気にしすぎないように工夫すればいいんじゃないですか」 「それができたら苦労しません」 「ずいぶんはっきり言い切るんですね」 周りの人に気を遣ってもらいたいのだろうか。 「だって……気にしすぎてしまうのが…

推進力と羅針盤

現状を肯定的に捉えられること、望む未来を想像できること、そこまでの道筋を具体的に想像できること。それらがあなたを望む未来へ導く。 現状を肯定的に捉えられれば力が湧く。目的とそこまでの道筋を想像できれば望む未来を引き寄せる行動の精度が高くなる…

補完

数学と自然言語は、その目的は同じだが、生み出す行間が一致することはない。仮に数学と自然言語の意味関係が一対一で対応したとしても、数学と自然言語が真に等価になることはない。 数学と自然言語は性質が大きく異なる。光と影、あるいはAと¬Aのように、…

行間

行と行の間には何かが宿る。意図していても、そうでなくても、望み通りであろうとなかろうと。 数学の記号で表されることと我々の用いる言語で表されることの内容が、数学の同型のように一対一で対応したとしても、同じなのは明示的な意味だけ。行間に宿るも…

刃を抜くな。ただで刃は収まらない。気安く失う覚悟をするな。 抜くな。そして、抜かせるな。抜くは不肖の道。抜かない道を善と知れ。 抜けば起きる「そのこと」。それに対する想像力が、竦みを生み、その均衡が互いを守る。 力は極力鞘に納めて使うものだ。

分別と謙虚さ

知性と強さは、それらをもたない場合とは異なる困難を呼び寄せる。知性と強さは苦難を生み出し、他者と我が身を焼いていく。 知性は安楽を約束しない。強さは安楽を約束しない。 あなたを…… 知性と強さの呪いから守るのは、あなた自身の分別だ。知性と強さに…

主役

たとえあなたが脇役でも、あなたはあなたの主役です。あなたの人生を引き受けられるのはあなただけ。いいことも悪いことも、結果は全てあなたのもの。 あなたには引き受ける権利と義務がある。

薄氷

氷を落としてしまった。氷は床を滑っていき、やがて壁にぶつかって静止した。カップに氷を入れる手を止めて、床に落ちた氷をみる。洗ってカップに入れ直しても問題はないが、冷凍庫には氷がたくさん入っているのでわざわざこの氷を使わないといけない理由は…

雑巾

雑巾を取り出す。ほこりやしみを吸って灰と茶が混ざった色に染まっている。その雑巾を水の入ったバケツに浸ける。雑巾がふやけて広がり、使い古されて穴だらけの姿があらわになる。バケツから引き上げる。雑巾からぽたぽたと水が滴っている。私は雑巾を絞っ…

行間の妙

表現は時と場合、また媒体によって変わるものらしい。媒体によって表現可能な領域と制約、さらにそれらがもたらす行間、含みが異なるからだろう。 どうやっても明示的に表現できないものがある。行間や含みで醸し出さなければ生み出せないものがある。明示的…

面白い定義、面白い設定、面白い内容は大切だ。しかし、それだけでは作品が文章でなくてはいけない理由はない。 ある私は、「文章という媒体を選択することが必然となるような作品を作りたい。その上で面白い定義、面白い設定、面白い内容を盛り込めれば……」…

数学に意味を与えるもの

知識ではなく知恵として数学を使うには数学そのものだけでなく、そこに意味を付与する方法を学ぶ必要がある。 数学はそれ単体で世界を明るく照らしだすことはできない。意味を与えてやらなければ、そして、その意味の中に良心がなくては。

36℃

温い。36℃くらいかもしれない。物思いに耽っているうちに紅茶が冷めてしまったようだ。口に含んでしばらくすると、ダージリンの淡い味と香りが口の中に広がっていく。温いものは温度による刺激をほとんど生み出さず、口に含んでも物質的な感覚だけが目立つ。…

誰かが私の向かいに座った。私は顔を上げる。すらりとした長身の、整った目鼻立ちをした美しい女性だ。女性は横を向いて長椅子にかけている。女性は長椅子にかけると、さっと鞄から文庫本を一冊取り出し、その本を読み始めた。ここでしばらく時間をつぶすの…

待ち人

ひどく蒸し暑い日の夕刻、海岸線に足を運んだ。橙の空と紫の海を見つめる。空の青は消え失せ、海の青は紫としてその一部を残したようだ。高い湿度のせいか大気は霞み、空と海の境界が曖昧なグラデーションに覆われている。紫の珈琲に橙の牛乳を混ぜたカフェ…

聖域

聖域とは何だろうか。ある辞書曰く、侵してはならない神聖な場所・区域、という意味らしい。侵せない、ではなく侵してはならない、というところに聖域の性質が垣間見えるように思える。 侵すことは簡単で、侵されないように保護しなくては存在することが困難…

精密検査

「精密検査、受けたくないな。悪いところが見つかるかもしれないし。」 「あなたなら大丈夫だと思いますけどね。」 「わからないぞ。すみずみまで検査されるんだからな。」 「心の中までは検査されないから大丈夫ですよ。」

不文律

理由はいつまでたってもどこまでいってもわからない。数学の公理によく似ている。 理由と実在の両方を明確に定めて保てる世界は存在しない。理由の存在を保証すれば実在の存在は保証できず、実在の存在を保証すれば理由の存在は保証できない。この世界はそこ…

怪奇

ある日の夜、眠りにつきかけたころ、突然どこかからキリキリという不気味な音がし始めた。何かにみられているような、何かが迫ってくるような感覚に襲われる。私は布団に包まり、その端を握りしめて怯えながら夜を明かした。 気が付くと朝になっていた。私は…